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高専インタビュー

理想の工学教育を目指して次々に改革に着手。 様々な施策で未来の高専像を追求続けています。

Interview

徳山高専の概要をご紹介下さい。


小高い丘の斜面に立つ校舎からは、瀬戸内海を臨むことが出来ます。学校は、長澤まさみさん・小栗旬さんが出演した映画『ロボコン(※)』のロケ地となりました。

瀬戸内海に面した臨海部に大規模な工業エリアが広がる山口県周南市。その郊外の見晴らしの良い丘陵地に徳山高専があります。設立時から複合学科制を導入した本校では、5年制の本科には、機械電気工学科、情報電子工学科、土木建築工学科の3つの複合学科があり、6つの工業系の専門分野をカバーしています。
また、本科卒業後に志望者が進学する2年制の専攻科でも、機械制御工学専攻、情報電子工学専攻、環境建設工学専攻の3つの複合専攻科が設置され、専攻科の修了後には6分野いずれかの学士の学位が獲得できることになっています。

本校が複合学科を設置した背景には、「世界に通用する実践力のある開発型技術者」を育むという目標がありました。「開発型」という言葉をわざわざ組み込んでいるのは、卒業生の進路を大型設備等の保全管理や運転支援を担う要員ではなく、製品や設備、環境、サービスなどの開発設計者となることを想定したからでしょう。
もっと言えば次の時代を牽引するようなR&Dを担う技術者を養成するという、明確な意図があったのだと捉えています。こうした教育体制のもとで学んだ卒業生たちは、就職先企業を中心とする産業界から高く評価されており、周南市や山口県が本校の本科卒業生を採用する際には、大卒に準じた雇用となっています。

※ 2003年9月に公開された全国高等専門学校ロボットコンテスト(通称"ロボコン")に打ち込む高専生を題材にした日本映画

徳山高専の特徴的な取り組みを教えて下さい。

本校が掲げた世界に通用する実践力のある開発型技術者の育成という高い目標は、複合学科を設置するだけで達成できる訳ではもちろんありません。様々な観点から理想の高専教育を模索し、その具体化施策に取り組み、実施後の検証や評価を継続すべきだと考えます。実際に、私が本校の校長に着任した2016年以降に限っても、数々の教育改革プロジェクトに着手してきました。

まず私の着任直後から取り組んだのは、文部科学省のAP事業です。APとは大学教育再生加速プログラムのことであり、大学教育の質的転換の加速を促し、大学の人材育成機能の抜本的強化を図ることを目的とした文部科学省の助成事業であり、徳山高専はAPが設定しているテーマV「卒業時における質保証の取組の強化」において、大半が大学で占められた全国19校の高等教育機関の中の1校として、高専の中で唯一採択されました。地域から世界に繋がる倫理感を持った「安心・安全複合融合教育プログラム」の策定、ディプロマポリシーに対応した知識・スキル・能力を可視化した「ディプロマサプリメント」の発行、教育力・授業力向上に向けた各種FD研修の実施、アクティブラーニングの推進や教育改善IR室の新設など、いろいろな学びの質保証に取り組みました。

次に、2018年度に学生自らが学習成果の達成状況を可視化して確認することを目指した「ポートフォリオ教育事業」の拠点校となり、全国10高専のポートフォリオ教育の運用状況調査を実施しました。加えて、そこに必要な教員スキルの強化ならびに手引き書の作成を行いました。現在は学生がITでポートフォリオをさらに積極活用するために、新ポートフォリオシステムの導入を進めています。
2020年度からは、高専高度化事業の一環として「FDプログラムの体系化」を実施しました。FDとは、ファカルティ・ディベロップメント(Faculty Development)の略で、教員の教育能力や資質・職務能力向上を目指し、教育の質保証を図るものです。本校は教員の教育力向上を目指し、教員を新任・準新任、中堅、ベテランに分類し、それぞれのキャリアに応じたFDプログラムを体系化しました。

他にも2021年度からはIR(学習データ)を用いた教学マネジメント事業などを進めていますが、以上のような教育改革を次々と実行してきたのは、私が本校の校長に着任する直前に、国立高専機構の本部事務局で2年近くにわたって高専機構全体の教育改革やモデルコアカリキュラムの推進に携わっていたことも大きいですね。高専を、教員が教える場から学生が主体的に学ぶ場へと移行し、そのためにも教員が常に自らを高めていく自走式の組織となり、それを高専教育の質保証につなげていく。そんな近年の高専教育改革を最も体現しているのが徳山高専であると自負しています。

また、従来の高専教育を見直す教育改革とは別に、天内 和人(あまない かずひと)教授が先頭に立って「グローバルエンジニア育成支援事業」にも力を入れています。本校は「世界に通用する実践力のある開発型技術者」を目指してきましたが、この中の「世界に」という文言を重視し、本校の学生が地域企業群のグローバル化を支える人材となるべく、世界共通言語としての英語力やさらには英語力には留まらない異文化対応能力の習得を図っています。それに加えて地域のグローバル化における課題を発掘し、それらの課題を様々な文化的背景を持つ人々とともに解決すべく課題解決力を身につけるための取り組みを推進しています。

※グローバルエンジニア育成支援事業についてはこちらを参照ください。

徳山高専の地域連携や社会実装について教えて下さい。


機械電気工学科の三浦 靖一郎(みうら せいいちろう)准教授は、高専機構GEAR5.0介護・医工事業のなかで「AT機器の開発人材の育成よりも、困っている人を助けようとする優しい発想を持ち合わせる技術者の育成」に力点を置いています。

徳山高専の地域連携活動の核になっているのが、「徳山高専テクノ・アカデミア」です。周南市を中心とする山口県内の企業にメンバー会員になっていただき、本校との連携を深めるフォーラムであり、2016年度の時点では40社の参画でしたが年を追うごとに増加し、2020年度には60社に到達しました。会員は名ばかりではなく実際に共同研究や技術セミナー、リカレント教育の支援等で緊密に連携する企業となっています。

社会実装教育の面では、「高専機構Gear5.0 介護・医工事業」において、本校のテクノ・リフレッシュ教育(TRE)センター長であり土木建築工学科の目山直樹准教授や、TRE副センター長で機械電気工学科の三浦靖一郎准教授が主導するAT技術者の育成と支援機器の研究開発が大きな成果を上げています。AT(Assistive Technology)とは障がいのある人々を支援するための技術全般のことであり、四肢の一部の機能を担う装置や視点入力技術などが知られています。また、ATの進化は障害者福祉への貢献のみならず、身体機能が衰えた高齢者のQOL(生活の質)改善にも役立つと考えています。

三浦准教授によれば、障害者支援と技術を結びつける着想を得たのは、2013年に遡るそうです。障害者雇用を促進する特例子会社の先駆けの一社であるオムロン京都太陽を視察したところ、就業を望む障害者や医療福祉機関のニーズは決して数多くの複雑な身体動作を支援する装置ではなく、就業する上で必要なのは身体機能の一部を代替する装置であって、それならば高専生でも開発に寄与できるという確信を得たということです。
また、本校ではAT機器の開発を行う人材の育成をダイレクトに目指すのではなく、困っている人を助けようとする優しい発想を持った技術者を育むことを主眼に置いています。専門を極める中で磨いた技術がATに繋がり、結果的にATの普及と発展に広がる可能性が、より大きくなると考えるからです。

徳山高専の学生たちの活躍をご紹介下さい。


2022年ロボコンで「双宿双飛」が、最高の栄誉であるロボコン大賞を受賞。紙飛行機を直線的に射出するチームが多い中、人の手で投げるかのような優しい射出にこだわり、その様子が地区予選の動画でバズりました。

徳山高専では、高専各校の主に土木系・建築系を学ぶ学生を中心に生活環境関連のデザインや設計等を競うデザコン(全国高専デザインコンペティション)や、毎年異なるテーマでロボット技術を競うロボコン(アイデア対決・全国高専ロボットコンテスト)などのコンテスト出場が活発で、優秀な成績を収めてきました。

デザコンはこれまでは特に構造デザイン部門における受賞が多く、2010年以降では2013年と2020年を除くすべての大会で最優秀賞、優秀賞、特別賞のいずれかを受賞しています。2022年も作品「一繋」が優秀賞を獲得しました。ケント紙と木工用ボンドのみで製作した橋梁模型の静的荷重を競うという内容で、部材に生じる圧縮力を利用した継手や構造全体の変形を紙の引張強度で制御する技術が高く評価されました。

ロボコンについては、2022年度の大会で本校からエントリーした機械電気工学科の鳩﨑一誠さん(4年)と北村元樹さん(3年)、情報電子工学科の阿比留崇輝さん(3年)らによるチーム「双宿双飛」が、最高の栄誉であるロボコン大賞を受賞しました。今回の課題は、自作した紙飛行機をロボットで飛ばして指定の場所にランディングさせて得点を競うという内容でした。他の高専が高得点を狙うために指定箇所を目がけて高速の連続射出を選択したのに対して、双宿双飛の開発したロボットは人が投げたかのように優雅に紙飛行機を飛翔させるのが特徴で、その様子が今回のテーマの「ミラクル☆フライ~空へ舞いあがれ!~」を具現化したロボットであると各審査委員から高く評価されました。

※2022年度の徳山高専のロボコンでの活躍についてはこちらを参照ください。

勇先生のご経歴を簡単に振り返って頂けますか。


大学院修了以降は30年以上を高知高専で教育研究を行い、高専機構モデルコアカリキュラムの策定にも関わりました。

京都大学大学院工学研究科から高知高専の土木工学科の助手に就職し、その後に出身の大学院で工学博士号を取得して助教授になりました。高知高専には30年2ヶ月にわたって在籍し、その間の1995年には文部省在外研究員として英国のバース大学に派遣されています。高知高専では助教授・教授の立場で学生への指導や研究を進めるとともに、情報処理センター長や教育改善室長、教務主事なども兼務し、2009年から最後の年の2014年5月までは高知高専環境都市デザイン工学科の教授でした。その後、2014年から1年10ヶ月間は国立高専機構本部事務局の教育研究調査室に在籍し、高専機構全体の教育改革推進やモデルコアカリキュラムの推進などに携わってきました。そして2016年に徳山高専の校長に着任したのです。

そんな私の研究者としての専門は構造工学で、橋梁などの鋼構造物において座屈などの特異現象が突然に起きる際の終局強度を、カタストロフィー理論を使って評価する研究を行ってきました。また、橋梁を中心とした景観工学もカバーしています。

高専の在学生および卒業生へのメッセージをお願いします。

高専教育は、実践的な研究開発能力の獲得を目指していますが、大半の卒業生はそれを実現できているはずです。社会に出た卒業生は、目の前の課題を積極的に見つけて、それを解決する実力を発揮してほしいですね。
そして社会にイノベーティブな成果を残すような貢献を願っています。高い壁を乗り越えるような大胆な挑戦になれば、多少は実力が伴わないケースもあるでしょう。

でも、技術が足りなくても高専生には継続して学ぶ力もあります。ぜひ、臆せずに高みを目指してチャレンジしてください。

本日はお忙しい中、長時間に亘りご協力頂き、ありがとうございました。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。