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高専インタビュー

緊密な地域連携や高専横断プロジェクト等を通して、 社会に貢献できる技術を磨く環境を整えています。

Interview

和歌山高専の概要をご紹介下さい。


和歌山工業高等専門学校 正門前

本校は、東海道新幹線が開業し、東京オリンピックが開催された昭和39年に、国立高専の三期校の中の1校として開校しました。発足時は機械工学科、電気工学科、工業化学科の3学科体制で、後に改組と学科の追加があり、現在は知能機械工学科、電気情報工学科、生物応用化学科、環境都市工学科の4学科となっています。

キャンパスの周囲は自然に囲まれ、海・山・川といった自然豊かな研究フィールドが身近にあります。大阪府南部や和歌山市等の人口の多い都市部からのアクセスが良好であるとは言えませんが、繁華街からは距離があり、勉強に専念できる環境とも言えます。また、通学の不便さを解消するため、県外および県内各地からの入学者に向けて、定員約550名の寮を用意しています。この学生寮は全高専の中で最も規模の大きなものの一つであり、朝夕の点呼や避難訓練、新入生向けオリエンテーションなどを3年生以上の指導寮生が中心になって自治的に運営しています。こうした学生主体の生活環境は、学生自身の自発性や自己管理能力を磨く原点となっています。

和歌山高専の特徴的な取り組みについて教えて下さい。


校舎や寮からは太平洋が一望でき、水平線の沈む夕日の美しさは、学生生活で一番の思い出と多くの学生が答えます。

本校の位置する和歌山県御坊市は和歌山県中部にあり、主となる産業は農業と漁業。蜜柑(みかん)や八朔(はっさく)、レモンなどの柑橘類が特に有名です。こうした地域の産業との結びつきは強く、教員が地域の審議会や審査会などに招かれることも少なくありません。地域の企業から本校の地域共同テクノセンターや教員に対して技術に関する相談を持ちかけられることも多く、教員が学生たちと一緒に技術支援や共同開発に取り組むこともあります。また、小中学校への出前授業や公開講座も数多く実施しています。これらの取組は、和歌山県中南部で唯一の高等教育機関としての責務でもあると考えており、県全域を通しても和歌山大学などと共に重要な技術支援に関わっています。

地域連携の実績を挙げれば、やはり農業分野における取り組みが多くなります。クラフトビールの開発や植物工場で行われるわさびの水耕栽培などに関する地元企業との共同研究、煙樹ヶ浜(えんじゅがはま)の防風林の保全に関する美浜町との共同研究などを進めてきました。他にも柑橘類の一種である和歌山南部特産の「じゃばら」を皮ごと食べられるように加工したいという協力要請が届き、商品化に漕ぎ着けたという事例もあります。

他方、本校の周辺地域には大規模な二次産業がほとんどないことから、製造業との共同研究・共同開発においては工業地帯の近隣に所在する高専ほど恵まれているとは言えませんので、他高専との積極的な連携などによってカバーすることが重要だと考えています。

他高専との交流については、「高専発!Society5.0型未来技術人財育成事業」の「COMPASS5.0 次世代基盤技術教育のカリキュラム化と特色の伸長・深化」で、ロボット分野の協力校、半導体分野の実践校として参加しています。令和3年度まではサイバーセキュリティ分野でも実践校として参加しました。同事業の「GEAR5.0 未来技術の社会実装教育の高度化」でも、「防災・減災(防疫)」分野と「防災・減災(エネルギー)」分野、「農林水産」分野に、いずれも協力校として参加しています。このように、それぞれの分野に強い全国各地の高専と積極的に関わるようにしています。

ロボット工学分野にも力をいれています。本校は全国高専ロボットコンテストで準優勝となったことが2回あり、近畿地区の高専の中で全国大会への出場回数が最も多いなど優秀な成績を収めていますが、背景にはロボット工学を尊重する気風があります。その一つの象徴が「きのくにロボットフェスティバル」です。全国の小中高校生を対象とするロボットコンテストを行うとともに、全国高専ロボットコンテストで優秀な成績を収めたロボットや、企業・大学が開発した最先端のロボットの展示・デモンストレーション等を行うこのイベントの運営に、本校の教職員が第1回大会から全面的に協力してきています。

和歌山高専の出身者の活躍についてお聞かせ下さい。

高専では、豊富な実験・実習を通じて身につけた実践的な技術・技能と、その学術面での裏付けとなる理論を、それぞれ関連付けながら全体像を理解した上で活用する能力を養っています。こうした教育を受けた高専卒業生の人材としての評価は産業界でも高く、優良企業に入社して活躍している卒業生が多いことについては本校も例外ではありませんが、自ら起業する卒業生も増えてきています。

その嚆矢(こうし)となったのが、ネットワークセキュリティ分野におけるリーディングカンパニーの1社に数えられるクオリティソフト株式会社を設立した、同社代表取締役の浦 聖治(うら きよはる)さんです。浦さんは1973年に本校を卒業し、パイオニア株式会社でエンジニアとして活躍後、1984年にクオリティソフトの前身企業を創設されました。

最近のケースでは、株式会社CuboRex代表取締役の寺嶋瑞仁さんが本校の卒業生らしい製品を開発されました。和歌山県有田市出身の寺嶋さんは本校の知能機械工学科でメカトロニクスを学ばれ、在校時はレスキューロボットの開発に没頭していたそうです。ロボコン準優勝時のメンバーでもあります。卒業後は長岡技術科学大学に進学。同大学の在学中に、農業や林業といった不整地産業に貢献できるプロダクトを開発するCuboRexを立ち上げられました。同社が開発した「E-Cat Kit」は、手押車(現場作業用一輪車)を電動化するキット。寺嶋さんが地元のみかん農家でアルバイトをしていた時、重労働の軽減を実現したいと考えて開発した製品ということです。

和歌山高専が注力しているキャリア教育についてお聞かせ下さい。

他の高専と同様に、本校は優秀な中学生の進学先となっており、主に和歌山県内から成績上位の生徒が集まってきます。その後の5年間にわたって実践的な工学をしっかりと学んだ卒業生に対する産業界からの評価は高く、就職希望者のほとんどが県内外の優良企業や公共団体などに迎え入れられています。待遇面や経営の安定性において申し分のない就職先がほとんどであり、満足度は高いのではないかと推察しています。教員たちの手厚い就職支援があるからでもありますが、やはりこれまでの卒業生の社会に出てからの活躍がその後の卒業生の評価を高める強力な後押しとなっているのは間違いありません。

しかしながら、現在の進路状況に満足してはいけないと考えています。大手だから、待遇が良いから、安定しているから…ではなく、一人一人の学生に、何よりも、「そこに一番やりたかったことがあるから」「なりたい自分になれるステージがあるから」という理由で就職先や進学先を選んで欲しいのです。そのためにも本校では、各学年に応じたキャリア教育を充実させています。この取組は就職希望者だけでなく、進学希望者にとっても、将来への展望を持ち高い目的意識を持つ上で大きな意義があると考えるからです。

そこで、本校では、将来のありたい自分の姿についての展望を持ち、卒業後の進路を意識しながら、その実現のために何を学ばなければならないかを考えさせるような指導を、入学当初から継続的に行うこととしています。このように将来の自分像と現在の学習や課外活動との関係を意識させることで、学生たちの日々は生き生きと輝くものになります。そして本校を卒業し、就職先や進学先で新たなスタート地点に立った時にも、高い目標に向かって迷わずに突き進める心構えを持つことができるでしょう。

北風先生のご経歴を簡単に振り返って頂けますか。


本校は、学生に将来のありたい姿を意識させるキャリア教育に注力しています。何より、そこに向かって努力し続ける重要性を教えています。

京都大学法学部を卒業した私は現在の文部科学省である文部省に入省しました。そこでは教育分野のみならず、研究、文化、スポーツなど多様な分野の行政を経験してきました。外務省や宮内庁などの他省庁や県の教育委員会などにも出向した経験があります。本校への赴任直前には、国立教育政策研究所で初等中等教育機関におけるキャリア教育を推進していました。そうした私のバックグラウンドは、本校のキャリア教育にも活かされています。

将来のなりたい自分の姿を意識し、それに向かって努力を重ねていけば、必ずチャンスは開けます。そのことを学生たちに教えていきたいと考えるのは、自らの経験があるからです。私は高校生の時に外交官になりたいと思ったことがあるのですが、当時の担任の先生からはとうてい無理だと言われていました。それでも国際関係の仕事に携わりたいという望みを捨てずに持ち続けていたからこそ、わずかな期間ではありますが、在ベトナム日本国大使館の一員として赴任することができたのです。そして現地で3年間、国際交流基金に関する業務や日本に渡るベトナム人国費留学生の選考などに携わりました。日本国政府を代表する外交官として国際関係の仕事がしたいという夢は、部分的にであれ叶えられたのです。

高専の在学生及び卒業生へのメッセージをお願いします。

在学中の高専生はもちろん、高専を卒業されたOBやOGの方々には、いつまでも将来のありたい姿について明確な展望を持つように心がけていただきたいと思います。キャリアを積み重ね、若い頃の夢が叶った方であっても、新しい夢やステップアップした目標を持つことは可能なはずです。そのために必要な知識や技術、そして多くの人と手を携えゴールに向かっていく経験は、高専での生活で十分に身に付けられているはずです。絶えず新たな夢を持ち続け、諦めることなく果敢に挑戦し続けてください。

本日はお忙しい中、長時間に亘りご協力頂き、ありがとうございました。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。