高専出身の転職は正社員専門のエリートネットワーク

高専インタビュー

新たな時代の地域産業・地域社会の期待に応え、前例のない社会実装でも成果を上げています。

Interview

大分高専の概要についてご紹介下さい。


正門を入って、すぐ現れるモニュメントは、若者たちが力を合わせてたくましく伸びてゆく姿を象徴しており、「AMOR OMNIA VINCIT」(愛はすべてに打ち勝つ)というカール・ヒルティの言葉が刻まれています。

昭和38年に国立高専の二期校として設立された大分高専は県庁所在地である大分市郊外に位置し、キャンパスの北方には日本製鉄、昭和電工、住友化学、ENEOSといった日本を代表する製造業の工場群が広がっています。
他にも膨大な数の中堅・中小の企業が製造拠点を構え、広範囲に工業地帯を築いています。本校は、こうした企業各社に今も多くの卒業生を送り出し、地域に根ざした理工系高等教育機関の責務を果たし続けています。

開校時は機械工学科と電気工学科の2学科でしたが、現在はそれに加えて情報工学科と土木工学科から発展した都市・環境工学科による4学科体制に至っています。
専攻科は機械・環境システム工学専攻と電気電子情報工学専攻の2コースを準備。他の高専と同様に就職希望者のほぼ全員が就職していますが、本校では関東・関西の大手企業や大分県内の大手企業製造拠点に就業するのが目立っています。
また、大分県内には本校以外に土木技術系の高等教育機関が存在しないことから、大分県庁及び県内各自治体の土木課には本校出身者が多く在籍しています。
一方で卒業生の約4割が進学し、本校専攻科および九州各県をはじめ全国の国立大学、長岡・豊橋の技術科学大学への編入学が多数を占めています。

着任して2年になりますが、大分高専の学生たちは、勉強意欲が高く真面目であるという印象です。
事実、今年の春に4年生に進級する際に贈る皆勤賞は160名中51名。年間の授業欠席が7時間以内の学生に贈る精勤賞は49名でした。併せて実に2/3近くの学生が皆勤・精勤を果たしたのです。

大分高専の新たな取り組みについてお聞かせ下さい。

大分県の工業の発展とともに歩んできた本校は、2003年に大分高専テクノフォーラムを発足。以来、本校と地域産業界を結ぶ産学官民一体となった活動を進めてきました。
現在も技術講演会や本校のラボツアー、技術相談などを実施しています。2017年に発足した地域共創テクノセンターでは、地域への公開講座や地元企業による共同研究を進めることにより、産官学民連携を一層深めています。

こうした地域連携は他の高専でも数多く見られますが、本校の地域連携は従来からの工業との連携とは別に、農工連携や防災・減災などによる地域貢献等においても確かな成果を上げているのが特徴となっています。
本校の農工連携の基盤となっているのがアグリエンジニアリング教育です。アグリエンジニアリングとは、農業における諸課題を機械、ロボットやセンサーなどのIT、環境設備等の先端技術で解決に導こうとするアプローチであり、生産効率の向上や生産者の労働負荷の削減を目指すものです。
工業は「ものづくり」、農業は「いきものづくり」であると捉え、本校では全学科の学生たちが、本科1年生と3年生時に一般科目においてエンジニアに必要な生物及び農学の素養を身につける授業を受けます。その他、専門工学と農学との関連実習が授業に織り込まれています。
加えて、専攻科に進んだ学生は農学概論の講義を受け、プロジェクト実験では実践的なアグリエンジニアリングを学びます。農業に関する専門性の高い講義に関しては、岩手大学と南九州大学の農学部の教授や一関高専のバイオ系の教授に、遠隔授業でご協力を頂いています。

本校がアグリエンジニアリング教育研究に注力する理由としては、戦後に工業県として発展した大分県はそもそもは農業が盛んな地域であり、今も多様な農作物の産地であることが背景にあります。
こうした農作物をアグリエンジニアリングの導入によって付加価値を高め、収益力の向上で地域経済に貢献していくことが本校の重要なミッションであると捉えているのです。

最初の取り組みは、県北にある国東(くにさき)市との包括協定によるものでした。同市の特産物である七島藺(しちとうい)の織機を本校の教員が中心となって改良したのです。
七島藺とは畳の原料となる藺草(いぐさ)の一種で、古い織機にセンサーやアクチュエーターを活用して使いやすくアップデートしたところ、大幅な生産効率の向上につながりました。

近年は、地場企業が行う地熱を利用したオランダ型農業の導入にも協力しました。これは県中西部にある九重(ここのえ)町の植物工場において行われているパプリカとトマトの水耕栽培を技術支援したものであり、ここでも本校の教員が校内の分析機器を用いながら溶液に配合する肥料のレシピを開発しました。
水耕栽培の収穫の成否を握る重要な役割を担ったのです。現在も環境制御技術による収穫短縮化や、ドローンによる生育状況確認を行うための画像データの機械学習などに取り組んでいます。もちろん、そこには学生たちの参加があるのは言うまでもありません。

他にも、ヒノキが大気中に放出する様々な成分を分析して、そこから目的のヒーリング成分を効率良く抽出する技術を確立していますし、菊の不要な芽取り処理や栽培中のネギの下葉処理を自動化するロボット技術の開発なども進めています。

防災・減災も、アグリエンジニアリングと並んで大分高専が力を入れている分野です。大分県は地震、台風、豪雨などが多く、そうした自然災害への対策について県内唯一の土木系学科を有する本校への期待と責任は大きいものがあります。
そこで防災と減災に関する基礎的な知識を持ち、専門技術の適用で災害を克服していこうとする災害レジリエントマインドを養う教育に力を入れてきたのです。
具体的には、全学科の5年生の前期に授業や県内の災害現場見学実習を実施。いざという時に取るべき避難行動が自然にでき、社会に出た後で災害時に周囲のリーダーとして振る舞える人材の輩出を目指しています。この成果は大きく、何人もの学生が防災士の資格を取得するに至っています。


副校長でもある博士(工学)の松本佳久教授は、九州北部で躍進する半導体製造に欠かすことのできない超高純度の水素を、企業との協働研究を通じて、従前の約1/1000の材料コストで精製する技術を開発しました。

SDGsの観点で進めている地域連携・産学連携では、副校長でもある松本教授が主導する水素の分離・精製技術が注目されています。九州北部は半導体製造業が躍進していますが、今後のモビリティの主力になる電気自動車に不可欠な電流・電圧をコントロールするパワー半導体の製造プロセスでは、きわめて純度の高い水素が必要になります。
ところが、その超高純度の水素の精製にはパラジウムなどの貴金属が必要であり、今まで高コストとその少ない資源量が課題でした。そこで松本教授は企業との協働研究を通して、貴金属を殆ど使用せずに約1/1000の材料コストで水素を精製する技術を独自に開発したのです。
現在ではバイオマスチップや大分コンビナートから出る副生ガスなど九州各地にある豊かで様々な水素源からより効率的に水素を取り出す実証段階に進んでいますが、その開発活動のメインは学生に移っており、学生たちが企業と社会実装に向けた研究開発課題の克服に向けて、直接のやりとりをしているそうです。
松本教授が進めるこの水素精製技術は国立高専機構(※)からも高く評価され、高専発!「Society 5.0型未来技術人財」育成事業の一つであるGEAR 5.0(未来技術の社会実装教育の高度化)の、エネルギー・環境分野の協力校に採択されました。

※国立高専機構:全国51校の国立高専を設置・運営する独立行政法人

学生たちの活躍についてお聞かせ下さい。

アグリエンジニアリング教育や災害レジリエントマインド育成教育における実験・実習、水素精製技術の社会実装現場では、多くの学生たちが意欲的に参加していますが、他にも様々な場面で学生の活躍が見られます。
クラブ活動では、野球部と柔道部が今年の高専体育大会でそれぞれ3位に入りました。高専ロボコン2022九州沖縄地区大会で優勝し、全国大会では見事準優勝しました(令和4年11月30日現在)。

学生の課外活動で顕著な功績を残しているのが、大分高専足踏みミシンボランティア活動グループです。
この活動は、日本各地で使用されていない大半が使用不能の足踏みミシンを寄贈してもらい、学生たちが使用できるように修復し、東南アジア諸国の貧困地域の人々に無償贈呈するというものです。
このボランティアは先輩から後輩に受け継がれて20年以上続いており、数々の賞を頂いています。
令和4年も「高校生ボランティア・アワード2022~持続可能な未来へ~」の全国大会に参加し、DREAM WORLD HEALTHCARE PROGRAMME賞を受賞しました。

※受賞した学生のインタビュー記事はこちらから

山口先生のご経歴を簡単に振り返って頂けますか。

私は和歌山高専の電気工学科を卒業後、豊橋技術科学大学の電気電子工学課程に編入学し、同大学院修士課程を修了後、シャープ株式会社の中央研究所で人工衛星に搭載される新規太陽電池の研究開発に従事しました。
ところが徐々にこの太陽電池技術の将来見通しが厳しくなり始め、会社も事業化を期待していないと判断し、誘いのあった母校への教員としての転職を決意したのです。
実際に新規太陽電池研究は私の転職後に別の会社に一旦引き取られました(現在はシャープに戻り、私を含む当時の研究者たちの成果の一部は引き継がれています)。

和歌山高専では授業や実験・実習で若い学生たちへの指導に関わることに充実感を得つつ、シャープ時代に培った基礎を活用して太陽電池の研究も継続しました。その成果もあり、平成5年に博士(工学)の学位を取得しました。
平成27年には新しいタイプの薄膜の太陽電池の開発に成功し、世界最高効率を記録。論文発表を行ったところ、世界各国の研究者の論文に引用されることになりました。
この成果は、和歌山高専の学生たちが研究開発を手伝ってくれたからこそ得られたものと言えるでしょう。

また、私は今年からロボコンの競技委員長を務めさせてもらっていますが、和歌山高専の教員時代は20年間にわたってロボコンの指導教員を務めていました。
最高成績は全国大会準優勝が3回。その度に、あとわずかという悔しい思いをしました。
このように優勝経験はまだありませんが、大分高専の学生たちにぜひ優勝してもらい、私の長年の夢を叶えてほしいと密かに期待しています。

高専の在学生及び卒業生へのメッセージをお願いします。


高専で学び卒業した方々には、社会で活躍していくのに十分な、しっかりとした実力が備わっています。周囲の方々に、高専での学びや友人たちと過ごした濃厚な時間を積極的アピールをしてほしいのです。

高専で学び卒業した方々には、社会で活躍していくのに十分な、しっかりとした実力が備わっています。在校生には日々の勉強に、卒業生には日々の仕事上の課題に、自信を持って取り組んでほしいですね。
大学への編入学や、専攻科を出た後に大学院に進学した卒業生には、一つお願いがあります。最終学歴は大学や大学院なのかもしれませんが、高専でみっちり学び、友人たちと濃密な時間を共有したという過去の熱い日々を友人や知人、会社の人たちに積極的にアピールしてほしいのです。
そうすることで、高専の本来の教育レベルが広く伝わるはずですし、皆さんも巡り巡って今まで以上に確かな実のある教育を受けたと言うプライドを持つことができるようになるはずです。

また、企業の方々には、即戦力の仕事ができる高専の本科卒業生を待遇面でも配属などの処遇面でも、きちんと公正に評価してほしいです。
今後益々、高専卒業生は社会の重要な場面を担っていくはずです。注目度や期待値もどんどん高くなっています。皆さんの今後の活躍報告を楽しみにしています。

本日はお忙しい中、長時間に亘りご協力頂き、ありがとうございました。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。