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高専インタビュー

学生の潜在能力と新たな価値を引き出す知財創造教育で、高専教育の理念を発展させた人材輩出を進めています。

Interview

沼津高専の概要についてご紹介下さい。


沼津工業高等専門学校 校舎

沼津高専は静岡県沼津市北部に位置し、富士山と海洋資源が豊富な駿河湾(するがわん)にも近く、西方には製紙の街として栄える工業都市の富士市があります。
昭和37年に国立高専の第1期校として開校し、現在は機械工学科、電気電子工学科、電子制御工学科、制御情報工学科、物質工学科の5学科、ならびに総合システム専攻科を擁し、約1100名の学生が学んでいます。
高専と言えば「アイデア対決・全国高等専門学校ロボットコンテスト(通称:ロボコン)」が有名ですが、第1回大会の優勝校が本校で、2020年にはロボコン大賞を受賞しました。

全学生の約85%が静岡県の出身で、さらにその約60%が静岡県東部からの入学です。静岡県は気候が比較的温暖で自然にも恵まれているからだと考えられますが、学生たちの気質は真面目で穏やかな面があります。
しかしその一方で指導に対しては素直であり、学問に向かう集中力は高く、周囲から突き抜けて優秀な「尖った人材」になれる資質を多くの学生が有しているように感じます。そこで本校でも「出る杭をさらに伸ばす」教育を指向しています。

また、現在はコロナ禍における密を避ける対策で自宅から通学する学生も少なくありませんが、本校は600名規模の学生寮を持ち、通常であれば1年生と2年生は原則として入寮することになっています。
その目的は、上級生と下級生のつながりを重視し、社会性の豊かな人間形成の場を設けることにあり、実際に上級生が下級生の学習をサポートする風土が脈々と根付いています。

沼津高専の特徴的な取り組みを教えて下さい。


課外の特別同好会「知財のTKY(寺子屋)」の活動のひとつ、電池自転車レースの「KV-BIKEプロジェクト」。鈴鹿サーキットの国際レーシングコース、及びツインリンク茂木のスーパースピードウエイで行われ、充電式単三電池40本を搭載した電池自転車で約2kmのコースのタイムアタックと1時間の耐久レースの獲得点の合計で競われます。エネルギーマネージメントの様々な工夫が求められます。

沼津高専では地域産業の発展および、2016年の閣議決定で提唱された「仮想空間と現実社会が高度に融合することで経済発展や社会課題の解決を目指すSociety5.0」を担う人材を育成する観点から、知的財産(知財)教育を授業にも課外のクラブ活動にも大きく取り入れています。
私たちの規定する知財教育とは、産業財産権や著作権などを保護する仕組みや姿勢を学ぶといったような狭義のものではなく、社会の多種多様な課題に気づき、それを解決に導く様々な知財を創造し、さらに創造された知財を企業での活用や起業などを通して社会に実装していく能力を養うことを目的としています。
近年、内閣府の知的財産戦略推進事務局は各種教育機関における知財創造教育を推進しています。そして、それと軌を一に経済産業省所管のINPIT(独立行政法人 工業所有権情報・研修館)が、「知的財産に関する創造力・実践力・活用力開発事業」を進めています。知財教育に注力する本校はこの事業に公募したところ、2016年度に支援対象校に採択されました。

現在では、1年生から4年生までの全学科の学生が、通常のカリキュラムの中で知財について継続的に学びます。1年生は工学基礎Ⅱの授業で知財の活用、創造の重要性、発想法などを学びます。2年生に進級する段階では、全ての学生が特許や実用新案、意匠、商標等の産業財産権等を検索・照会できるデータベースである特許情報プラットフォームを使いこなせるようになっています。
2年生と3年生では地域企業の持つ課題に対して知財をどう活用していくかについて、弁理士会の協力を得て実践的に学びます。そして4年生になると課題解決に向けた技術やアイデアの創造に取り組むなど、スパイラルアップ型の全学的知財学習システムを構築しているのです。

他にも選択科目や課題研究等で知財について学べる場面は数多くあり、課外の特別同好会「知財のTKY(寺子屋)」は、乾電池40本で鈴鹿サーキットを走る電池自転車レースの「KV-BIKEプロジェクト」、現在では2000メートルの深海4K撮影に成功している「駿河湾深海調査」、数々の受賞に至った「パテントコンテスト」参画などの活動を行っています。
こうした数々の取り組みの中から、現在では創造性を磨いて地域の企業や自治体の課題解決に貢献したり、共同で在学中に特許を出願したりするような優秀な学生が増え続けています。


知財教育の推進役である電気電子工学科の大津孝佳教授。「知財のTKY(寺子屋)」では、課題解決から創造性開発にまで応用できる思考支援ツールへ発展させた、問題解決理論のTRIZ(トリーズ)を学生は様々な活動に活用しています。

以上のような本校における知財教育の推進リーダーは、電気電子工学科の大津 孝佳(おおつ たかよし)教授であり、「知財のTKY」も大津先生が座長的な存在として学生たちの指導に当たっています。
大津先生は大手電機メーカーでハードディスクドライブの開発に25年間に渡って携わってきた後に高専の教員となった経歴を持ち、これまでに鈴鹿高専で5年間、そして本校に着任して8年間、併せて13年もの期間を知財教育に心血を注いできました。国連の世界的な知的所有権に関する機関であるWIPOが主催する国際的なTRIZに関するセミナーでも講師を務めています。

大津先生が知財教育を進める際に、軸としている理論の一つがTRIZ(トリーズ)です。TRIZは、元々は1946 年にロシア人の G.アルトシューラが研究を始めた約40万件の特許分析を基点とする問題解決理論であり、設定された40の発明原理を参照・活用することにより、現在では課題解決から創造性開発にまで応用できる思考支援ツールへと進化発展しました。
大津先生は、このTRIZを大きく用いて「知財のTKY」を率い、学生たちとともに様々なテーマに挑んでいるのです。大津先生によれば、TRIZの発想法を学ぶことで身の回りのちょっとした疑問を自分ごととして意識するようになり、その意識が再びTRIZで新たな発想や解決法を引き寄せ、練り込まれ、知的財産に結びつけていくというものです。さらに、それは工業的な財産のみならず、絵画や文学、音楽といったアートでも同様の創造性をもたらすそうです。

「知財のTKY」をはじめとする知財教育の近年の実績の中で特に目立っているのが、大津先生の門下生と言える専攻科1年生の鈴木 涼太(すずき りょうた)さんが中心になって始動した「ハトギプロジェクト」です。このプロジェクトは、鈴木涼太さんが本科1年生の時に刃物研ぎ器でパテントコンテストに応募し、優秀賞および文部科学省科学技術・学術政策局長賞を獲得したのが起点です。この発明は、刃の研磨角度を一定に保つ仕組みが評価されたものであり、その後に特許権を取得。さらに発明者の鈴木涼太さんに加えて知財のTKYの部長である鈴木 檀(すずき まゆみ)さんがチームを取りまとめ、新村 大起(しんむら ひろき)さんが図面制作を担当し、諸星 賢太朗(もろぼし けんたろう)さんが広報写真撮影を行い、川嶋 玲志(かわしま れいじ)さんが広報を、宮本 万里歌(みやもと まりか)さんが市場調査や情報収集を担当したハトギプロジェクトで商品化を進めたのです。

改良を重ね、地元企業の協力を得て完成した刃研ぎ器は金物の展示会でたくさんの刃物のプロの目に留まる出来栄えでした。当初は主婦層に想定したターゲットを刃物マニアやプロの調理師に変更したところ販売実績が急速に伸びたそうですが、ここにもTRIZの課題解決方法が活きたそうです。そして一連の成果は、2020年度・2021年度に特許庁長官賞を2年連続で受賞するに至りました。

沼津高専の地域連携施策を教えて下さい。


知財のTKYの活動のひとつである駿河湾深海調査では、地域連携に発展させています。駿河湾フェリーと連携して学生が考案・制作したバーチャルYouTuber(VTuber)を登場させ、駿河湾の地形や歴史、生物多様性を育む環境などを動画で分かりやすく紹介しています。

本校の地域産業や自治体との連携も、知財教育がベースとなっています。金属の特殊塗装・表面処理を行っている静岡県駿東(すんとう)郡にある長泉パーカライジング株式会社とは、技術的な改善活動を本校と一緒になってTRIZで進めていますし、裾野市や沼津市とも連携して地域の問題点とその解決方法を同様に行っています。

知財のTKYで進めている駿河湾深海調査の活動も、地域連携に発展しています。静岡清水港と西伊豆土肥港(といこう)を70分で結ぶ駿河湾フェリーと連携し、フェリーの中で駿河湾の魅力を伝える「学びの船」を企画し、新たな観光モデルの創出を進めているのです。

KV-BIKEプロジェクトでも三島市の中学生にレースを見学してもらうことで、工学に目覚めて貰えるような取り組みを行っています。中学生の好奇心と吸収力はもの凄く高く、技術的に深いところまで高専の学生たちから学び取っているそうです。

また、知財教育とは直接のつながりは強くはありませんが、静岡県とは県の東部地域で盛んな医薬品・医用機器産業に向けた連携を進めています。
その舞台は、静岡県の推進する「ファルマバレープロジェクト」で、県が富士山麓に広がる静岡県東部地域に医療健康産業クラスターを形成しようと旗を振る中で、本校は医用機器開発を担う中核技術者を養成する社会人講座「富士山麓医用機器開発エンジニア養成プログラム」を主催しています。
本校の専攻科には医療福祉機器開発工学コースがあり、こちらと連携してリカレント教育を進めるものです。

岡田先生のご経歴を簡単に振り返って頂けますか。

私は京都大学の大学院理学研究科で博士号を取得後、静岡大学と東京工業大学で研究と教育に携わり、平成27年から東工大理学部長を、平成28年からは併行して理学院長を、それぞれ平成30年まで務めました。
平成30年から令和3年度末までは東工大副学長に就いていました。本校の校長には令和4年4月に着任しています。

専門は分析化学で、測ることよりも測るためのアイデアを考え、新しい現象を見つけていく分野です。私は特に「凍結現象」に興味を持ち、研究で深掘りしてきました。
凍らせることで1/1000の濃度でも測定が可能になったり、反応が速くなったりする現象などを突き詰めました。
これらの研究成果は、環境や宇宙、生命科学などの領域の進展に幾許かは貢献できたのではないかと自負しています。

高専の在学生及び卒業生へのメッセージをお願いします。


高専のこのような環境で学んだ学生は、高い専門性を携えたスペシャリストに成長します。スペシャリスト、またスペシャリストからさらに視野を広げたジェネラリストも、誰もが認めるリーダーに育っていくはずです。

本校の校長に着任して以降、私は多くの教員や学生と関わっていくうちに、高専生の持つ「手を動かしながら考える」という実践的な課題解決能力の高さが、聞きしに勝る事実に感銘を受けました。
このような環境で5年間も学べば、高度な専門性を具備したスペシャリストに成長できると確信しました。今後、人類にのし掛かる諸問題を解決に導いていくのは、そうした一つのことを突き詰めたスペシャリストに違いありません。
尖った人と言えば聞こえは良いかもしれませんが、いわゆる専門バカやオタクといった貴重なスキルや価値を持ったスペシャリストから、人類を救う人が現れてくるものだと思います。

では、ジェネラルな感覚を持ったリーダーは別のタイプが担うかと言えば、決してそうではありません。スペシャリストが視野を広げ、専門以外の知見も獲得し、リベラルアーツ教育で洞察力を磨き、語学にも取り組めば、誰もが認めるリーダーに成長していくはずです。
そうしたヒーローやヒロインが、高専の卒業生や在校生の中から出現してくれる事を、私は期待して止みません。
そのためにも、私は校長として数年先、あるいは十数年先を見据え、その頃に社会から期待されるスペシャルな技術と広い視野を持った人材を育む教育体制を、今から準備していかなければならないと強く感じています。

本日はお忙しい中、長時間に亘りご協力頂き、ありがとうございました。

※この記事の役職等は取材当時のものです。