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高専インタビュー

産学・地域連携を推進しつつ、高専をつなぎ、社会実装教育の更なる可能性を追求しています。

Interview

鈴鹿高専の概要についてご紹介下さい。


鈴鹿工業高等専門学校 正門前

三重県北部の重工業地帯に近接し、F1レースの開催で世界に知られる鈴鹿サーキットのある三重県鈴鹿市。昭和37年、この地に国立高専の第1期校として設立されたのが鈴鹿高専です。
以来、「技術者はすべからく紳士・淑女たれ」という建学の精神を歴代の校長や教職員と共に学生たちが受け継ぎ、知・徳・体のバランスの取れた人材育成を重視しています。

準学士の課程である本科は、機械工学科、電気電子工学科、電子情報工学科、生物応用化学科、材料工学科の5学科体制を敷いていますが、それぞれの独立性を優先する縦割りの教育ではありません。
各技術の複合融合や多様な人材による視点があってこそ解決の糸口が見えてくる近年の産業社会の課題に対応すべく、課題発見・課題解決能力育成に向けた全学的共通カリキュラムを導入しています。
ここで学生たちは各学科の専門領域を超えて他領域に触れる機会を多く持ちます。代表的な例が、2年生の「デザイン基礎」。これは、一般教養の先生を中心に様々な研究テーマを学生に提示し、学科を超えたグループを編成して問題解決に挑むプロジェクト形式の授業です。
4年生の「創造工学」は、各学科のグループが高度なものづくりに取り組む課題解決プロジェクトですが、こちらも学科の異なる学生が加わったり、他学科の教員の指導・支援を受けることが珍しくありません。
現実の課題解決のためには専門領域を超えた協力が有効であることを、学生たちは体得しています。

学士課程の専攻科では、本格的に異分野融合の産業構造に対応し、平成29年度から総合イノベーション工学専攻に高度化改組しています。
以上のように、異なる技術領域に視座を広げるカリキュラムを重視する本校ですが、肝心の専門領域が疎かになっては本末転倒です。
学生たちはこの点を充分理解しており、他学科の学生と協業を進めていく際に、研鑽してきた自らの専門性が着実に身に付いていることを再確認するのです。

鈴鹿高専の特徴的な取り組みを教えて下さい。

本校が課題発見及び課題解決能力の育成に向けた全学的教育カリキュラムに注力しているのは、高専教育の本質は社会実装教育にあると考えているからです。そのために極めて有効な産学連携による共同研究や産業界からの講義、地域社会貢献等はかねてから盛んです。

高専の未来技術の社会実装教育の高度化プロジェクトである「GEAR 5.0」において、本校はマテリアル分野の中核拠点校に採択されていますが、これは単にマテリアルに関する研究推進を特命的に受けたものではありません。
GEAR 5.0は、地域密着型・課題解決型・社会実装型教育など高専の特長をそのままに、国立51高専をつなぎ、そのスケールメリットを活かしてこそできる人材育成の質的転換を目指すものです。一つの専門技術分野だけでは解決できないテーマ(社会課題)に対して、国立51高専が持つ広く様々な分野の知見を結集することで課題解決を引き寄せる、実践的な人材育成プログラムを構築しています。

本校がマテリアル分野の中核拠点校に採択された理由で、プロジェクトリーダーの兼松秀行(かねまつ ひでゆき)教授が所属する材料工学科の存在は大きいでしょう。また、最先端の観察・加工設備である収束イオンビーム装置など、設備面も充実していることも本校の大きな強みです。更に、本校が学内に設置している「産学官協働研究室(K-TEAM)」など、これまでの産学連携実績や蓄積したノウハウを期待されました。K-TEAMでは企業研究者・学生・教員が共同研究を通して社会実装を行います。GEAR 5.0マテリアルではK-TEAMの仕組みを全国の高専に展開するのが一つの大きな使命です。

これまでの実績で、企業から寄せられた様々な課題に対し、協力校を中心に全国高専の多くの学生と教員がオンラインやリアルでつながり、企業研究者と共同研究・共同分析を積み重ねてきました。すでに数々の研究成果を社会実装し、例えば抗菌・抗ウイルスの材料やコーティング技術、バイオフィルムなどでは顕著な成果を上げています。

GEAR 5.0マテリアル事業は、材料工学科の取り組みだけでなく、例えば電気電子工学科の若き橋本良介(はしもと りょうすけ)講師が事業のサポートエンジニアとして活躍するなど、全学科で推進しています。他の高専とも、最新装置の遠隔利用を進めるために電気・電子、機械、生物、情報の各分野の知見も投入されています。他のGEAR 5.0分野とも連携しつつ、高専の学生と教員や設備・環境などのリソースを、必要に応じてダイナミックに結びつけるプラットフォームづくりのノウハウは、全国の高専に波及していくはずです。

GEAR 5.0の他にも、本校は産学官連携・地域連携について数々の取り組みを行っています。三重県「ものづくり企業DX推進支援事業」で、本校がデジタルものづくり推進拠点のサポーティングパートナーズに認定されていることもその一つです。本校は三重県の企業のDXを推進するためにDX推進教育をカリキュラムに導入しています。授業では、企業にアプリやウェブに関わる支援を行うデジタルパートナー事業を全国展開されているフラー株式会社の協力を得て、学生は同社技術部門トップの藤原様から直接指導を受けています。同社の渋谷会長にはグローバル化する社会での技術者について講義をして頂きます。渋谷会長は長岡高専出身、藤原さんは苫小牧高専の出身であり、産業界最前線で活躍する高専OBによる講義は、学生たちにとって大きな刺激です。

実際、学生達にとって、産業界と関わる意識や卒業生の活躍に対する興味は大変高いようです。本校の60周年記念事業にあたり、記念講演者について数名のリストから学生全員にアンケートをとったところ、選ばれたのは本校出身で、現在はGoogleの研究者として世界的に活躍されている全炳河(ぜん へいが)さんに決まりました。

また世界と言えば、本校は国際化教育にも力を入れています。英語教育に始まり、2年生の全員が海外研修を行うなど、専攻科までの7年間を通したグローバルエンジニアの育成をしています。過去3年近く、コロナ禍により実際に足を運ぶ交流はストップしていましたが、ウェビナーによる海外の教員の講義の受講や海外学生とのディスカッションが昨年から始まりました。今年からはフィンランドのトゥルク応用科学大学と提携し、2名の5年生が5ヶ月間の留学をしています。現地で様々な国から集まった学生と共に学ぶことは、グローバルで活躍する第一歩となるでしょう。

学生の皆さんや卒業生の活躍についてお聞かせ下さい。


「MIE IKONI CIRCUIT」のゲームの様子。実際の場所をゲームで再現し、地元の特産品や観光名所を巡ることができるスマホアプリを開発しました。こちらは高専GCON2021で最優秀賞を受賞しました。

前述の「創造工学」では実際に高度なものづくりに取り組むと紹介しましたが、そこから数々の成果物が生まれ、コンテストに出したところ高い評価を得たケースがたくさんあります。
パテントコンテストでは「小型容器分別回収機」が文部省の特別賞をいただき、特許の取得に至っています。
他にも創造工学の課題から出発した「三重県の名産品を知って観光名所を駆け巡る 地方創出スマホアプリゲーム〜MIE IKONI CIRCUIT〜」を開発した学生たちが高専GCON2021(高専GIRLS SDGs×Technology Contest)で最優秀賞に輝いています。

鈴鹿高専は工学系の優れた高等教育機関としてだけではなく、スポーツの面でも成績の目覚しい文武両道の学校と認識されています。例えば2022年の全国高専大会でテニス部が2年連続で個人・団体・ダブルスの3冠、男子バレー部も2年連続優勝、女子バスケット部も優勝しています。知・徳・体のバランスの取れた人間教育を重視する建学からの教育方針は今も息づいているのです。

卒業生の進路については、他の高専の地元定着率の平均が20%以内であるところ、本校は25%を超えています。
三重県北部は工業が盛んな面もありますが、K-TEAMにおける体験で、地元企業をよく知り、そこに働きがいを感じて就職する学生も出てきているのです。

竹茂先生のご経歴を簡単に振り返って頂けますか。

東北大学の理学部で物理を専攻し、大学院では物性理論を研究した私は、仙台電波高専(現仙台高専)の講師に着任後、同校で25年にわたって勤務し副校長を務めました。その後、平成29年に長岡高専校長、令和2年から本校校長を拝任しています。

専攻した物理は自然現象が対象で、空理空論ではなく現実に起きる現象を分析する良い訓練になりました。特に物性理論は比較的身近にある複雑な現象の本質を説明することから、本質について議論することが鍛えられたと思います。一方で、理論的研究なので博士課程を修了するまでに実際にものを作った経験がなく、仙台高専に教員として着任した際に、高専生のモノづくり能力の高さには心底から凄いと感服しました。

そんな私も、仙台電波高専では教員の立場で高専のものづくり文化にどっぷりと浸かりました。中でも、ベンチャー起業から食品等の安全性確保のために細菌を迅速に検出できる方法を相談され、学内の教員たちと開発した細菌迅速計数装置は、最終的に大手食品関連の会社のほとんどに導入されるまでに至りました。
光学が専門の先生や電子回路に詳しい先生と互いの専門領域から技術とアイデアを持ち寄り、私が画像処理のプログラムと全体の取りまとめを担当。まさに高専らしい融合複合技術追求と産学連携が実ったケースと言えるでしょう。

高専の在学生及び卒業生へのメッセージをお願いします。


高専生には、自分のやりたいテーマを明確にもって努力を重ねてほしい。ただし、世の中は目まぐるしく変化することから、目標を変化に対応できるよう、柔軟に軌道修正や再設定をしてほしい。

私は高専生の価値は極めて高いと実感しています。プロジェクトで課題を与えると、大学生は図書館(今はネット?)に走り、高専生は100円ショップに走ると言われますが、15歳からものづくりの感性と素養を磨く高専生は産業分野で大きな価値を発揮できるのです。産業界でも、理論の大学生と実践力・実行力の高専生がタッグを組んだチームは最強と言われています。

そんな高専生には、自分のやりたいテーマを明確に持って努力を重ねて下さいと申しております。目標が大きなモチベーションになるからです。ただし、一つの目標だけを追い続けるばかりが正しいのではなく、世の中は目まぐるしく変化しているので、一つの目標にこだわり過ぎずに、時には変化に合わせた柔軟な軌道修正や再設定が必要であることも添えたいと思います。すでに産業界で活躍されている卒業生であっても、このことに変わりはありません。

世界を見渡せば、現在の社会は相当なスピードで変化しています。その中で、日本を代表するような企業でも追随できていない場面が見られます。むしろ若い企業の方が対応は上手ではないでしょうか。古い概念やしきたりに囚われず、変化を先取りするぐらいの意識で、これからの時代に立ち向かっていくことを期待します。

本日はお忙しい中、長時間に亘りご協力頂き、ありがとうございました。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。