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高専インタビュー

学生の「学びたい」という想いに応える風土が、結果として進学実績や数々の受賞に現れています。

Interview

群馬高専の概要と特徴をご紹介下さい。


群馬工業高等専門学校 正門前

群馬高専は、群馬県を代表する都市である前橋市と高崎市のほぼ中間に位置し、寮も完備していることなどから、県内外から幅広く入学者を集めています。
学校組織としては機械工学科、電子メディア工学科、電子情報工学科、物質工学科、環境都市工学科の本科5学科と、生産システム工学専攻と環境工学専攻の2つの専攻科があり、入学した学生はそれぞれの専門を極めていくことになります。
しかしながら、単に学科ごとに学年を分割した縦割の編成としていません。本校は、社会の多種多様かつ高度な技術課題に幅広い視野を持って挑み、これを克服していくために複数の領域に及ぶ知見を持った人材の輩出を目指してきました。
具体的には、学生たちが最も得意な工学分野の知識と、それとは異なる工学分野の知識を融合して、困難な課題を解決まで導く能力を磨く教育を指向しています。

そこで、本校では1年生と2年生のクラスを学科融合で組んでいます。
1つのクラスはさまざまな学科の学生の混成で成り立っており、入学からの2年間は自身とは異なる学科のクラスメイトとの自然な交流を可能にしているのです。
これによって3年生以降も、自らの研究課題や実験・実習を進めていくにあたり、同じクラスで友人だった他の学科の学生と互いに協力しあって、様々なことに取り組むという風土が醸成されます。

本校の進路状況は、就職希望者のほぼ100%が大手の電機、機械、ゼネコン、そして自治体・公共機関や地元優良企業等に進んでおり、企業からの本校への求人件数は就職希望者の総数を大きく上回っています。
一方で本科卒業生の大学・専攻科進学率は約65%。専攻科修了生の大学院進学率が約64%となっています。東大、京大、東工大、東北大、筑波大など超難関校への入学者も多数輩出しています。

こうした進路に関するデータを見ると、群馬高専は県内でも有数の進学校と言えるでしょう。しかし、本校は決して進学にシフトした高専ではありません。
過度な受験対策は行っていませんし、一人でも多くの学生を難関校や有名校に送り込んで進学実績を伸ばそうとする風潮も、もちろんありません。学生たちは他の高専と同様に授業・実験・実習・レポート提出などを通して技術の習得や、産官との密な交流を通しての課題解決学習に腰を据えて取り組み、学会発表やスポーツ、文芸などの部活動に熱中し、ロボコンやプロコンなどのコンテストに積極的に出場しているように、高専生らしく多忙ながら中身の濃い学生生活を満喫しています。

校長である私は、多くの教員や学生とのコミュニケーションを通して、群馬高専はいかにも高専らしい学校であり、社会に役立つ技術を習得することを目的の第一とする高専教育の王道を歩んでいると感じています。
外部から高い評価を受ける本校の進学実績は、「該当領域の第一人者が教授を務める大学や大学院で専門を極めたい」、「高専で追求したテーマの続きをより高度なステージで取り組みたい」・・・つまり、もっと学びたいと純粋に想う学生たちの向上心が積み上げたものなのです。

地域産業との連携についてお聞かせ下さい。


群馬県内を中心とした約150社の企業で構成される「群嶺テクノ懇話会」から、製造工程の歩留まりの向上や電力消費量の計算ソフト開発等の相談を頂き、課題解決学習(PBL)を実践しています。

学生たちの学ぶ意欲を引き出しているのは、優秀な教員の存在や自由闊達な雰囲気に加えて、やはり冒頭に話した複眼的な視座による課題解決学習に注力している面が大きいように思われます。
学生たちは授業等で専門性を高めつつ専門外の視点も取り入れ、社会の必要とする課題解決を技術で克服する醍醐味や手応えを得ます。
一定の効果を確認し、実際に導入され、効果が現れ困っていた当事者から感謝されるようなケースに至れば、学ぼうとする意欲はさらに増すでしょう。

そんな課題解決学習の一例として挙げたいのが、4年生から始めるPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)です。実際に課題を設定し、その解決を図るプロジェクトを通して、ゴールまで辿り着くための実力を養います。
とくに環境都市工学科4年生および専攻科のPBLでは、企業等から実際の課題を提供してもらい実施しています。今年度の環境都市工学科4年生のPBLは「防災」というテーマで進めています。専攻科では、学科横断でプロジェクトメンバーを組むなど、多様な取り組みに柔軟に挑みます。そして、産学連携のプロジェクトを立ち上げ問題解決を行います。例えば、過去には製造工程の歩留まり向上施策や、製品製造時の電力消費量の計算ソフトを開発したいといった課題が協力企業から持ち寄られ、学生たちの奮闘により解決に導く成果を上げてきました。

ここでも複数の技術領域の融合によって課題解決を行うアプローチが取られています。
近年、社会では農業とICTの融合による効率性を高めたスマート農業や、工作機械にAI技術や GPSを埋め込んで高度化を図る技術、医療分野で極小機械のナノマシーンを導入して今までに不可能だった診断や治療を実現するなど、複数の技術領域の融合の成果が続々と登場しています。
群馬高専の技術融合を積極的に図る指導方針は、こうしたトレンドに先駆けるものといえます。
事実、1年生と2年生のクラスを学科横断で編成する取り組みは10数年以上も前から行っていますし、学生が能動的に学習に取り組むアクティブラーニングに関しても、教育界でその価値が広く認められる以前から課題解決学習の中に取り入れてきました。学習指導要領に縛られずに、社会の最新・最先端ニーズに敏感になりながら関連技術の習得に主体的に取り組む。そんな高専らしさを以前から存分に発揮してきたのが群馬高専なのです。

先ほどのPBLに協力いただいている企業の裾野は広く、さまざまな製品やサービスを社会にもたらしている群馬県内を中心とした約150社の企業で構成される「群嶺テクノ懇話会」が主体となっています。
この群嶺テクノ懇話会では企業会員および個人会員と本校教員との懇話会を軸に、先端技術についての講演会や会員各社に対する個別技術相談を実施する他、インターンシップでは多くの学生を受け入れて頂いています。
今年の入学式の翌々日に行った企業技術説明会では約30社にブースを出して頂きました。この企業技術説明会の目的の第一は就職先紹介ではなく、学生に実際の企業活動の実態を知ってもらい、学習意欲を高めることを目的としています。
ですから、就職活動を間近に控えた学生はもちろん、全学年から多くの学生が参加し盛況となりました。

学生や教員の皆さんの活躍についてお聞かせ下さい。


総務省主催の「高専ワイヤレスIoTコンテスト2022」では、本校の学生のチームの提案が採択されました。今後実現に向けて総務省と運営事務局の支援を受けて技術実証が行われます。

本校は課外活動が活発で、ロボット研究会(ロボコン)や電算部(プロコン)、運動部では、陸上競技部や硬式野球部、サッカー部、女子バレーボール部、女子バスケットボール部、ソフトテニス部、卓球部、柔道部、剣道部、テニス部、水泳部が全国の高専大会等に出場しています。
つい先日、本校の専攻科を修了し、現在は東京大学大学院2年生の金子宗平さんが、第25回全日本自転車選手権個人タイムトライアル・ロードレース大会男子エリート(36キロ)の部で優勝しました。文武両道の学生が多いのも本校の特徴の一つです。

研究に関する表彰としては、本校理科部の岩佐茜さんが、2022年5月にアトランタで開催された、「リジェネロン国際学生科学技術フェア(Regeneron ISEF)2022」に日本代表として参加し、「水溶液のpH差を利用した水の低電圧電気分解によるエネルギー創成」について発表を行いました。
そして、この発表に対して、岩佐さんに文部科学大臣特別賞が贈られました。

また、本校環境都市工学科5年の吉田智咲さん、木暮悠暁さん、専攻科2年の清水敬太さんで構成されるチーム「Eco Smart 防災レンジャー」が、「高専ワイヤレスIoTコンテスト2022」の「電波利用システム利活用部門」で、提案名「自然エネルギー発電と可搬型IoTセンサによるEco-Smart Townの実現」が採択されました。提案内容は、群馬県下仁田町を対象地域に、風力発電と可搬型 IoT センサを活用して防災情報の取得・発信や構造物の維持管理に貢献するというものです。この提案も複数の技術領域の融合成果であり、本校の教育方針を体現した内容と言えるでしょう。

教員の活躍では、群馬高専と高知高専を中心とする10高専で開発した超小型衛星のKOSEN-1のプロジェクトにおいては、本校の平社信人教授が学生たちと取り組んだ姿勢制御技術はJAXAから高く評価されています。
過去には、数学を担当する神長保仁教授が、日本人として初めてマヨラナ賞を受賞しています。この賞は、優れた理論物理学の論文に対して授与されるものです。

以上は、本校の学生と教員の数ある功績の一部を紹介したに過ぎません。学生たち、教員の方々が、さまざまな活動を通して社会的に評価されるとともに、日頃から成果を目指して頑張っている姿を見るのは、校長として嬉しい限りです。

三谷先生のご経歴を簡単に振り返って頂けますか。

私は群馬高専の校長に着任する前は、文部科学省で教育行政に従事していました。初等中等教育・高等教育・生涯学習や文化財など様々な分野を担当しましたが、一番長く取り組んだのが、保健など健康教育や給食などの食育、学校安全に関することでした。
平成18年から約3年間は韓国ソウルの日本大使館に駐在し、留学生の支援やスポーツ交流・文化交流を進めていました。
近年は復興庁へ一旦籍を移した後、文部科学省に戻ってからは文部科学戦略官として、教育機関における新型コロナウイルス対策を含めた健康教育・食育に当たりました。

群馬高専校長に着任する辞令を頂いたときは、よもや自分が指名されるとは思っておらず、驚きとともに人を育てる責任の大きさを感じました。
一方で、元々教員志望だったこともあり、第一線の教育現場に着任することの嬉しさもありました。
ただ、長年にわたり文部科学省で教育行政に関わってきたことから、何をすべきか見当はつきます。教育行政と学校現場での指導は表裏一体であり、学生たちを見る角度は違っても目標は同じだからです。
それでも学校内で学生たちと触れ合い、一人ひとりが元気に奮闘する様子に心を打たれるのは、教育現場に居てこそ得られる醍醐味だと改めて感じています。

高専の在学生及び卒業生へのメッセージをお願いします。


群馬高専が文武両道であるように、全国の高専はそれぞれ風土に個性があります。しかし、共通して言えることは、高専では実践的な学習をしていることで、社会に出てからその価値を実感できるでしょう。

高専生は同年齢の高校生との人数比で、約1%とされています。この数字を少なくないと取るか、少ないと取るかは、人それぞれでしょう。私はこの1%を、希少価値を持ったスーパーレアだと捉えています。
高専で学べることは、社会の今と未来にとって重要な内容であり、しかも実践的にもしっかりと習得しているので、社会に出てからの方が高専教育に高い価値があることを実感できるでしょう。

このスーパーレアな1%の皆さんが獲得した、あるいは獲得しつつある技術や経験は、年齢を重ねても社会を堂々と歩んでいく際の心強い武器になります。新しいものを生み出す技術で、新しい社会を牽引するご活躍を期待しています。

本日はお忙しい中、長時間に亘りご協力頂き、ありがとうございました。

※この記事の役職等は取材当時のものです。