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高専インタビュー

多彩な施策を通して、多様化する社会が求める 協働・共創を牽引する人材を育んでいます。

Interview

奈良高専の概要についてご紹介下さい。


奈良工業高等専門学校 正門前

奈良高専が位置する奈良県北部の大和郡山市は、古都奈良に隣接する歴史の古い町で、多くのため池と金魚の養殖でも知られています。市内をJR大和路線と近鉄橿原線が通っており、第二阪奈道路や名阪国道にも近く、大阪府や京都府からのアクセスも良好です。このように交通の便に恵まれていることもあり、在校生の約4割を奈良県外の出身者が占めています。

その歴史は他の多くの高専と同様に、昭和30年代から始まった高度経済成長期を高度技術者教育で支えていくという目的に端を発します。当時、奈良県でも企業への技術支援と人材育成が最重要課題となりました。そこで古くから県内屈指の教育都市であった大和郡山市に国立高専の誘致が決まったのです。そして昭和39年に本校が開校。以来、産業界で活躍できる技術者の育成を第一の目標として今日まで歩んで参りました。学生への技術教育のみならず、小中学校生を中心とした地域サイエンス教育にも力を注いでいることは、広い視野で人材育成に臨んでいる本校らしさの一つと言えるでしょう。本校が平成4年に専攻科を全国の高専に先駆けて設置したことも、産業界の潜在需要をいち早く捉えてのことでした。
産学官連携に関しては、全国に視野を広げています。実際に奈良県内のみならず、京阪神企業の技術者教育や全国規模での技術相談・共同研究等に積極的に取り組んできました。以上のような数々の先駆的な教育施策・産業支援を行ってきた結果、外部資金獲得総額は毎年のように全国51高専の上位にランクされ、令和2年度は1位となっています。


正面入り口には、ロボコンなどこれまでの数々のコンテストやアワードの表彰が展示されている。

近年の学生たちの発表や表彰においても、その業績には目を見張るものがあります。今年(令和4年)に入ってからだけでも、日本機械学会関西学生会で貢献賞ならびにベストプレゼンテーションアワードを受賞、サイバーセキュリティ教育プログラム「CyberSakura」決勝ラウンドで優勝、日本設計工学会関西支部2021年度研究発表講演会で学生優秀発表賞、化学工学会学生発表会で優秀賞、計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会で優秀講演賞、高専GCON2021で優秀賞と視聴者賞のW受賞など、続々と栄誉の報せが届いています。これまでに、ロボコン大賞を最多の4回受賞、高専ラグビーで最多タイの4連覇を達成しています。

奈良高専の特徴的な取り組みを教えて下さい。


「しなやかエンジニア教育プログラム」は、近年の産業界のグローバル化と異分野技術の融合複合化により多様な担い手が集まる生産、開発現場において、新しい価値を持ったモノ・コトを作り出すことができる「豊かな感性・表現力」を備えたエンジニアリーダーの育成を目的とした教育プログラム。

デジタル化の進展で、産業界では様々な技術が融合・複合化しています。グローバル化もますます進展し、今後いっそう多様な人材が集まってくるでしょう。そうした様々な能力や視点を持つ人たちが緊密にコミュニケーションを取りながら知恵を育み、協働することにより、イノベーティブなモノ・コトづくりを促すと私は考えています。そのためには技術者にも工学的な知識や技術のみならず、感性や表現力、さらにリーダーシップが求められます。そこで本校では、工学教育に加えて感性や表現力を涵養する異分野の学びを取り入れ、「しなやかエンジニア教育プログラム」を2019年度から導入しています。“しなやか”の言葉には、強さと柔軟性を備えているという意が込められています。このプログラムは、陶芸や藍染、プロダクトデザインといったユニークな授業やワークショップがあり、工学の基礎であるSTEM(Science,Technology,Engineering, Mathematics)に、アート(Art)の要素を組み込んだSTEAM教育への転換を加速できると考えています。

女子学生の比率を高める施策においても、本校の取り組みが成果を出しつつあります。4年制大学工学部の女子学生比率は15%強ですが、国立高専全体では23%と高くなっています。本校は女子学生の目標比率を30%に置き、2019年度から推薦入試で女性エンジニアリーダーの養成枠を設ける他、高専の女子学生が学生生活や学ぶことへの想いなどを女子中学生やその保護者、企業などに発信するイベントである「高専女子フォーラム」、本校の女子学生が小中学生向けにPR活動を行う「奈良高専なでしこプロジェクト」に注力してきました。その結果、本年度の入学生に占める女子の割合は27%にまで高まりました。
女性エンジニアの比率向上は、単なる機会平等の実現ではなく、多様化の進む産業社会にとっては喫緊の要請とも言えます。男性とは異なるアート目線を持つ女性エンジニアが増え、その活躍が表に出るに従って、男性エンジニアが本来持っている良さも引き出されます。私は性差はあると考えていますが、男女互いの長所を活かし合う、補い合うことでシナジー効果が生まれるでしょう。

また、多様化社会へのエンジニア教育という観点から、世界で活躍するグローバルエンジニアに必要な英語コミュニケーション力と専門領域の英語力を備えるとともに、異文化を理解し尊重する資質を身につけた人材を養成するために、2018年度から「グローバル工学協働教育プログラム」を実施しています。具体的には、留学生受け入れによるキャンパスの国際化、海外協定校との異文化交流、海外でのインターンシップの推進などになります。奈良県は歴史や文化の面で留学生の興味と関心が高く、グローバルな文化融合に最適な地でもあるのです。

地域社会や産学官との連携についてお聞かせ下さい。

本校は奈良県唯一の学部レベルの工学系高等教育機関として、工学に関する教育研究における産学官連携の要としての重要な使命を担ってきました。そうした活動実績は、2015年度の「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」の採択に結実しています。この事業では、雇用創出・人材定着、地域志向型教育、地域共創研究クラスターの設置、卒業生の再就職支援など、地域連携活動の再加速を行いました。

高専機構が全国51高専ネットワークを活用し、企業・自治体・大学などと幅広く連携した事業として展開している「高専発!Society5.0型未来技術人財育成事業」にも本校は積極関与しています。この事業は研究の高度化を目標とした「GEAR 5.0」と次世代基盤技術教育のカリキュラム化を目標とした「COMPASS 5.0」で構成されていますが、本校は「GEAR 5.0 防災・減災・(エネルギー)分野」の中核拠点校であり、本校を含め5高専が協力することにより、分散型エネルギーデバイス、物質交換技術、ICT・AI技術などの開発を推進しています。

また、大和郡山市は関西文化学術研究都市(けいはんな学研都市)に隣接しています。この広域都市は国公私立の大学やその研究施設、産官の研究機関・施設が集積し、海外の諸研究機関とも関係性を深める学際的な地域になっています。本校においてもこの地の利を最大限に活用し、国内外の一線級の研究者による講義や講演、英語でのワークショップなど、教育効果の高いプログラムを実施しています。

今後は早期エンジニア教育機関である高専の利点を活かしつつ、地域の他の高等教育機関と連携し、「高専発高度エンジニアリーダーの育成」を目指します。社会実装教育・研究を深化するために企業との共同教育・共同研究を推進し、その果実をリカレント教育に繋げるダイナミックな人材育成・人材支援です。本年度に奈良女子大学に工学部が設置され、奈良県立大学にも工学部の設置構想があり、今後は互いに補完し合う協力体制を築いていきたいと思っております。奈良先端科学技術大学院大学とは、高専専攻科との接続性の良さから、これまでに数多くの教育・研究交流実績があり、今後はさらに連携を深めていきたいと考えています。

奈良高専からは社会へどのように人材が輩出されていますか。

奈良高専の学生が本科を卒業した後の進路は、就職が約4割、国公立を中心とした大学への編入学が約4割、本校専攻科への内部進学が約2割となっています。他の高専にも言えることですが、本科卒業者の就職先は大手製造業が多く、第一志望の企業に推薦で合格するケースが一般的です。就職・進学に限らず、本校出身者の多くが本校で学んだことを土台に大きく羽ばたいていると言えるでしょう。

ただ、本校の場合は奈良県内に製造大手が少ないこともあり、県内就職率は5%程度と少数に留まっています。そこで大都市圏の大手企業に就職したのちにUターンで地元の優良企業で働きたい卒業生のために、行政や地元企業と連携して卒業生の再就職支援を行っています。

後藤先生のご経歴を簡単に振り返って頂けますか。


「文部科学省第11期中央教育審議会委員」「国立高等専門学校機構理事」「全国高等専門学校連合会会長」など校長以外の要職も歴任されつつ、多忙ながらも時間があれば、界面科学の研究や趣味の登山をやりたいと、いつでもなんにでも全力投球。

私は大学の学部、修士課程、博士課程をすべて奈良女子大学で過ごし、次いで短期間ですが同大学で助手を務めました。専門はコロイド界面科学、洗浄科学です。その後は、京都教育大学で学校教員の養成に16年間にわたって携わりました。そして2009年に再び奈良女子大学の生活環境学部に教授として戻り、研究に邁進。後輩学生たちと一緒に、着心地良く優れた性能を持つ高付加価値衣料素材や、環境・資源に配慮した次世代型洗浄システムを探求するなど、充実した研究生活を送っていました。

そんなある日、高専の校長就任の打診がありました。設立50年余りを経過した全国51の国立高専で最初の女性校長です。今もそうですが、産業界で活躍する女性技術者の割合を増やすだけではなく、多くの女性エンジニアリーダーを輩出することが課題でした。私は未来を託す後輩たちへ「一歩前へ」というメッセージを伝えたく、2016年に打診を拝受してこの重要課題に挑む決心をしました。

奈良高専校長に就任して3年目には国立高専機構学生担当理事を兼務。さらに就任5年目から現在に至るまで、国公立私立全高専57校の学生の体育大会やコンテスト系大会を主催している一般社団法人全国高専連合会会長を拝命しています。

高専の在学生及び卒業生へのメッセージをお願いします。

高専は15歳からの早期エンジニア教育を行う「尖った教育機関」です。高専教育や高専卒業生に対する産業界からの信頼は極めて厚く、近年はその期待がいっそう高まっていることを実感しています。高専卒業生には高専時代に実験・実習を中心とした体験的・能動的なエンジニア教育で習得した技術の社会実装力に、もっともっと、自信を持っていただきたいと思います。

一方の在学生には、学習面以外にも学級活動、課外活動、寮生活などを通して、協働・共創の成功を引き寄せる人間力やコミュニケーション力を、しっかり磨いていただきたいと思います。
高専連合会ホームページに「高専卒業生からのメッセージ」というコンテンツを設けています。高専時代の課外活動の経験が社会人となってからの活躍にどのようにつながったかの体験記です。在学生はもちろん、卒業生やこれから高専を志望するかもしれない中学生、保護者の方にもぜひ見てほしいですね。

本日はお忙しい中、長時間に亘りご協力頂き、ありがとうございました。

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。