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高専出身者の『転職体験記』

高専卒の航空機エンジン整備士、大卒との入社後の格差に失望。転職カウンセラーの道へ

Information
    • 加藤 茂光 氏 / 27歳
    • 国立 函館工業高等専門学校 機械工学科(現 生産システム工学科 機械コース) 卒
      サッカー部(主将) 卒部

① そもそもなぜ高専へに入学しようと思ったのか

高専を知ったきっかけは、中学校2年生の時でした。
クラスに航空機整備士になりたいと話していた友人がおり、その級友が高専を視野に入れて受験勉強していたことをきっかけに存在自体を知りました。
それから高専について調べてみましたが、理数系に特化しており、中学校の科目にある「技術」が得意な人が集まる、ちょっとオタク系の学校かな?という認識くらいで、第一志望ではありませんでした。
どちらかと言うと当時の私は、親から「将来は公務員か先生が良いんじゃないか」と勧められており、且つ小学校・中学校で続けていたサッカーも捨て切れずにいたので、サッカー部が強く国公立大学への進学率もそこそこ高かった地元の公立高校を目指していました。

とは言え、公立高校・私立高校・高専の3校を受験予定だった為、高専の見学会にも念の為、参加してみました。
その見学会で、目指していた方向性がぐるっと180度変わりました。
そこでは、学生が作った画像認識で自動に走るロボットやゼロから作ったUFOキャッチャー、金属の破壊実験で使用する引っ張り試験装置、自動車一台を製作しようと思えば出来てしまう実習工場(しかも全国57校の高専の中で一番大きい)、学生が楽しそうにモノづくりし、自分が作った物を誇らしげに語っている姿を見て、ふわっとイメージしていた公立高校への進学・大学という順を踏んでいくより、高専の方が社会で役立つ実用的なことが学べて意味ある学生生活を送れそうだと感じ、直感で高専の機械工学科に行こうと決めました。

② 高専で実際にどんなことを学んだのか

函館高専(機械工学科)では、1年生から3年生までで横型万力を制作するカリキュラムが組まれており、工作実習の実技を中心に、工作法を学びながら技術者の基礎を体得していきました。
工作する過程においては、工作機械の特性と部品毎に仕上がり状態の観察を行い、毎週、A4用紙にびっちり何十枚という考察レポートを作成しなければなりませんでした。
理論的に吟味する能力を養成することを目的としてはいるものの、徹夜で仕上げることもあり中々ハードな経験でした。

それらを5年間一緒に過ごすことになる男子39名女子1名のメンバーと一緒に乗り越えながら、2年生後期にはこれまでの集大成として、工場にある機械(横型旋盤・フライス盤・NC工作機械・レーザー加工機…)や鋳造などを全て使用して横型万力製作の実習を行い、組立図や部品図を読み正しく理解する力、工作機械を使い図面通りの精度の製品を作る力を総合的を身に付けました。

3年生からは、大学学士卒と同等の専門教育が始まっていき、機械工学科の場合だと4力と言われる機械力学・熱力学・材料力学・流体力学をはじめとした電気工学・情報工学・設計製図等の座学と実験/レポート、赤点60点の定期テストをクリアしながら専門性を深めていきました。

授業以外の面では、サッカー部に所属していました。
サッカー部は、オフ日である毎週月曜日以外の平日の授業が終わる16時頃から19時まで練習・土日は試合というサイクルで、5年間勉強と部活を両立しながら過ごしてました。
高専は3年生までは一般高校と同様の大会に参加しつつ、全国の高専だけで行われる高専大会にも出場します。
特に高専大会は、北海道地区4校(函館高専・苫小牧高専・釧路高専・旭川高専)で全国大会出場1枠を競う為、どこの高専もこの大会に賭ける想いが強く、毎年どこの高専が全国に行くかわからないワールドカップ予選の様な独特な雰囲気の大会でした。
私は、3年生の時に全国大会出場を経験しましたが、1回戦で優勝候補の愛媛県の新居浜高専と当たり、全く歯が立たなかったことを今でも鮮明に覚えてます。

また、函館高専は顧問の先生はいるものの監督・コーチはいなかった為、キャプテンだった私が練習メニューの考案から試合での戦術、他校への練習試合の申し込み、メンバーの選定等を行なっておりました。
部員は1~5年生まで在籍していたので、40人弱を常に取り纏めなければなりませんでした。意見の食い違いも発生する中で一丸となって同じ方向へ向かっていくのは苦労しましたが、貴重な経験となりました。

③ 新卒での就職活動の時点での志や志向

中学時代の友人と航空機整備の話をしたことをきっかけに航空業界に興味を持っており、就活では整備士を目指すか、大学に編入して航空関連の設計者を目指すかを悩んでいました。
そんな中、4年生の時に偶然ANAグループのインターンシップの募集があり、参加しました。
そこではANAグループの整備会社を見学し、整備の業務内容・どういったマインドを持った人物が整備士に相応しいのかを学びました。

そして、インターンシップを通じて、特にANA エンジンテクニクス(飛行機の心臓部であるエンジン整備を行う会社)で働く整備士の立ち振る舞い・知識量に圧倒されました。
そこから設計者として机上の空論だけで設計を行うより、まずは現物を見て触って、現場の課題感を知った上で設計者を目指した方が良いのではという考えになりました。
そして、同社を第一志望で学校推薦として受け、内定を頂くことが出来ました。

④ 入社した会社・部門での担当業務や実務経験、体得したスキル。高専で学んだ知識が活かされた場面

入社後は、1年間の整備士訓練を通じて、エンジン整備5課まである内のエンジン整備2課に配属され、機体から取り外された巨大なエンジンの分解・組み立てを行っておりました。
まず分解工程は、機体から取り外されたエンジンを広大な工場の中で一番始めに受け入れ、分解する前にBorescope inspectionというエンジンにある点検孔から内視鏡検査を入れ内部のコンプレッサ・燃焼室・タービンの不具合状態を把握し、分解深度を決めるという作業を行いました。
その後、分解深度に従ってエンジンを実際に分解していくという業務を担当しておりました。

片や組み立て工程は、分解工程の真逆です。
検査されて良品となった部品・修理された部品・新品に交換した部品をそれぞれ組み立てていき、分解前の状態に戻すことを行なっておりました。

その他、作業支援としてエンジン試運転や、機体に出向きトラブルシュートを行うことも経験しました。
航空機整備は常に納期が決まっているタイムプレッシャーがある中での作業の為、時間管理・洞察力・判断力のスキルが養われたと思います。

高専で学んだ知識は、社内の整備士の資格を取得する上で理論的な問題を解く際や、iPadを用いて整備帳票類を電子化するプログラムを作成する間接業務の際にC言語の基礎知識が活かされたのみで、正直、直接的に作業に活かされた場面はありませんでした。

⑤ 転職するに至った背景、入社後のギャップ

転職を考えたきっかけは、2つあります。
1つ目は、高専と大学・大学院卒と異なる人事制度が設けられていたことです。
全日本空輸とANA エンジンテクニクスは同列のグループ会社という括りではあるものの、高専を卒業して入社した私は全日本空輸本体と年収・福利厚生に大きな差がある環境でした。
尚且つ将来的に携われる業務領域は、ANA本体へ出向して生産技術や生産管理、品質管理などの業務を数年間経験することはあっても、人事制度上の扱いはずっとグループ会社籍の待遇で、最終的には整備現場に戻ることが決まっておりました。
先輩社員の顔を見ても、楽しくなさそうに愚痴を言い合いながら働いているモチベーションの低い就労環境に嫌気が差したということが1つ目の理由です。

2つ目は、HondaのCMを見たことです。
元々は現場で航空機エンジンの整備を学んだ後に航空機の設計が出来る会社を目指そうという個人的な計画があった為、入社3年目の時にちょうどリリースされたHonda JetのCMを見て、チャレンジしたいなと思ったことが転職活動を始めたきっかけでした。

⑥ 譲れないと考えた軸、逆に、従来のこだわりを捨てた点

転職について色々と調べている中で偶然「高専 転職」という検索で(株)エリートネットワークが検索上位にヒットしました。
高専を知ってそうなエージェント、且つHPに有名な大手メーカーのロゴも多数掲載されていたので、自分の希望に合致した転職が出来るのではないかという期待を持ち、サイトに登録しました。
早々に面談がセットされ、日本には理系出身の技術者が少ないという課題に対し、高専出身者が必要とされているという話で盛り上がりました。
話の流れで「人事部にANA Grに入社すれば、将来的に出向などして本体にも行けるよ、と良い事ばかり言われたんでしょ?
でも実際はそんなことは出来ない環境で、高専、大学・大学院卒で異なる人事制度が設けられていて、モチベーションが上がらないんでしょ」
と私の転職を考えた背景をズバリ言い当てられました。
そこまでは良かったのですが、本題のHonda Jetの開発・設計をやりたいという希望は、残念ながらエンジン整備経験のみの私はチャレンジすることが難しいと言われ、その瞬間、大学に編入すれば良かったと正直絶望しました。

理由は簡単で、転職というのは言い方を変えると「即戦力採用・経験者採用」の為だからです。
Honda Jetの開発・設計でターゲットとされていたのは、当時開発がなかなか進んでいなかった三菱重工のMRJの設計・開発経験者だったと少し冷静に考えればわかることでしたが、転職活動が初めての私の情報量ではそこまで考えを巡らせることはできませんでした。
カウンセリング後に、他の求人(今振り返ると第一想起はされないものの技術力が高く、財務体質も良い企業ばかり)も紹介されましたが、なかなか現状を受け入れることができずに、その時は転職活動を止めてしまいました。

ただ、前職を続けていても結局モチベーションは下がっていく一方で、腐る前に何とか現状を変えなければという気持ちが強くなっていきました。
航空宇宙業界への拘りを捨ててしまえば、設計・開発職という選択肢は探せばあったのですが、そこは譲れずにいたので、その道自体をキッパリと諦めました。

次は、学生時代に使用していたC言語と、前職にてiPadを用いた改善活動でプログラム作成経験があったので、そこを切り口に、IT系に強そうな創業して間もないエージェントを使用し、ITエンジニアへの転職を目指しました。
しかし、自分自身のメイン業務経験は航空エンジンの整備だった為、何社も経験不足と言われる日々が続きました。
その次には、製造現場の改善スキルという観点でコンサルを受けてみるも、コンサルはそもそも大卒以上という要件があり、書類選考の段階で受け入れてもらえませんでした。

どうすれば転職できるかと彷徨っている間に、自分は職場で誰かに頼まれた訳でもなく勝手に「こうすればより生産性が上がるだろう」という改善活動をいくつも積極的にやっていることに気が付きました。
この様な、直接的な業務ではないめんどくさいと思われがちな改善活動を自然と出来る理由を考えた時、単純ではあったのですが、人から「ありがとう」という感謝の言葉を受けることが原動力となっていたことにハタと気付きました。
目の前の顧客から日常的に好循環なフィードバックを受けやすい環境といったらビジネスの最前線である営業職ではないかと思い、私自身はコミュケーションをとりながら業務を推進することも苦ではなかった(好きな方だった)為、未経験ではありましたが営業職を目指すようになり始めました。

そして自身が高専出身者として転職で色々と悩んだこと、ものづくりの現場感覚は掴めている点を逆手に取り、私自身が転職エージェントになれば企業と転職希望者の双方の助けになると考えました、
その時に、1番初めに利用したエリートネットワークが高専の転職に注力していたことを思い出し、門を叩いて熱意を持って法人営業にチャレンジしたい旨を伝え、首尾よく転職が決まりました。

⑦ 転職活動を通じた気付き(高専出身者に対する評価)や学んだ点

高専生は新卒の就職活動の際に学校推薦という伝家の宝刀を使えるメリットがある一方で、日本には中小企業を含め約367万社もの企業があるうちの数社しか知らない状態で入社を決めることになり、入社後にアンマッチだったと気付く方は少なくないと思います。
私自身も航空会社のANAとJALしか知らずに、人事制度や入社後の処遇やグループ各社間での位置付け、会社を取り巻く環境から予測される内部事情などを気にせず1社目を決めてしまわざるを得なかったことが、イメージしていたキャリアとの大きなギャップとなってしまった原因だと反省してます。
つまり、新卒採用の時点で、高専卒業生と大卒者および院卒者との入社後の社内での出世コースが別々に分かれていて、将来的にもずっとハンディキャップレースを強いられる現実に直面したのです。

また、転職においては、実務経験が求められる以上、1社目でどのような経験値を積めるかが非常に重要です。
しっかり吟味した上で入社しなければ、いざ転職という時に自分自身が思い描いていた企業や職種を受ける事すらできないという事態になりかねないということを、新卒の方々は、私の失敗体験を参考にして頂ければと思います。

私は転職活動の際、航空宇宙に拘りを強く持ち過ぎたことで、後々色々な業界の企業を一貫性のない形で50社近く受け彷徨いました。
元々、「人」にも興味関心が強かったことから、実は営業職が向いているのかもしれないと気付くことができたため、偶然新しい道が開けましたが、最初に転職の相談をした際に選り好みせずに設計・開発のできる高専ニーズの高い企業に進んでいたら、もっと早くに転職が決まり、そこで花開いていた可能性もあります。
もしかしたら、回数は重ねることになりますが、3社目で自分が目指していた航空宇宙系はもちろんのこと、更に別の道にキャリアが広がっていたかもしれません。
そのため、もう既に働いておられ私と同じような境遇に置かれている方は、転職活動ではエージェントを信じて、素直に色々な企業の話を聞きに行くくらいの気持ちで幅広く比較検討しながら進めることで、結果的に納得感のある転職が実現できるのではないかと思います。

⑧ 次の職場に賭ける意気込み

高専出身者の多くの方は技術系の仕事を志向なさる方が多いと思いますが、世の中には、職種も業界・業種も色々な可能性があるよということを、エリートネットワークの法人営業 兼 転職カウンセラーとして、今後は転職活動をサポートする側の立場として、高専卒業生の方々に対して満足のいく転職の実現で証明できればと思います。
そして、大卒あるいは院卒でないという理由のみで、実力はあるにも拘わらず不本意な境遇に甘んじておられる高専卒業生の方々に本懐を遂げる一助になりたい、と強い決意で本分に励みたいです。

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