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高専トピックス

はじめに


今大会の会場となった「サンドーム福井」(福井県越前市)。課題部門は22チーム、自由部門は25チーム、そして競技部門60チームの高専生たちが参加しました。

全国高等専門学校プログラミングコンテスト(以下、高専プロコン)は、全国の国立・公立・私立の高専58校63キャンパスの高専生たちが、日々の情報処理技術に関する学修成果を生かし、アイデアの実現力を競うコンテストです。
1990年(平成2年)から毎年開催されており、コロナ禍でのオンライン開催を経て、2023年(令和5年)の今大会は福井県越前市での開催が実現しました。

社会実装を前提とした実践的な教育を行う高専には生成AIや機械学習、IoTといった新たな技術の台頭によって、急速に発展し続けている高度テクノロジー社会に対応した人材を輩出することが期待されています。
高専プロコンはこうした社会からの期待に応えるために知識や技術力を高める重要な機会となっています。

今回は、2023年10月14日(土)、15日(日)に開催された第34回大会の本選の様子をお届けします。

(掲載開始日:2023年10月30日)

課題部門

課題部門では、与えられた課題を解決するために、チーム一丸となってソフトウェアの企画から実装までを行います。各チームは、独創性やシステム開発の技術力、プレゼンテーション能力等によって総合的に評価されます。
今年のテーマは、「オンラインで生み出す新しい楽しみ」です。

新型コロナウイルス感染症の大流行に伴い、仕事やイベントなどが急速にオンライン化した結果、本来の目的である人同士との接触の制約が達成されるとともに、オンライン環境だからこそ得られる利点についての認識が社会全体に広がりました。

今大会で、高専生たちは日頃培った技術力やアイデアを活かし、情報通信技術を駆使することで、全く新しいオンラインを通じた『楽しみ』の提供に挑戦しました。
柔軟な発想と高度な技術力によって生み出された、オンライン環境ならではのシステムが数多く発表されました。以下、受賞作品をご紹介します。


熊本高専(八代キャンパス)が開発したアプリケーション『転生将棋』。今まで意識されてこなかった将棋中盤戦に焦点を当てたこのアプローチは、面白い着眼点であった。

最優秀賞 熊本高等専門学校(八代キャンパス) 『転生将棋-新感覚中盤トレーニング-』

最優秀賞を受賞した熊本高専(八代キャンパス)は、将棋の中盤戦に特化したアプリを開発しました。

将棋の対局は、大まかに序盤・中盤・終盤の3パートで構成されています。序盤戦は定跡書、終盤戦は詰将棋などによって上達を図る機会があります。
中盤戦は、確立された練習方法がないため、数限られた実践でしか感覚を養うことができません。
本アプリは、中盤戦から対局を始めることができるため、難しいと言われている中盤戦の練習を最適に行うことができます。

オンライン上でユーザー同士の対戦が可能なこと、他のプレイヤーの対局を観戦できること、ディープラーニングを用いて互角な中盤の盤面生成を実現していることが製作した作品の特長です。
毎回均衡の取れた中盤の盤面生成が可能であるため、単なる練習のためだけでなく、新しい将棋の楽しみ方も提供しています。

アプリの通信処理や盤面生成AI等、随所に技術力の高さを感じる最優秀賞に相応しい作品でした。


鳥羽商船高専が開発したアプリケーション『FishCam』。技術力はさることながら、ビジネスへの展開の可能性も秘めた作品に感じられた。

優秀賞 鳥羽商船高等専門学校 『FishCam-遊漁船業のオンライン安全確認・釣果共有システム-』

優秀賞を受賞した鳥羽商船高専は、遊漁船業のオンライン安全確認・釣果共有システムを製作しました。

近年、アウトドアレジャーとして小舟等で行う「カセ釣り(※)」を楽しむ人が増えつつあります。しかし、カセ釣りを提供する遊漁船業者は、法律により利用者の安全の確保が定められているため、これに伴う巡回監視は大きな負担となっています。
製作したシステムは、この課題を解決するためのシステムであり、且つ集客効果も見込めるものとなっています。


製作したシステムには、船上の様子を撮影・通知する安全確認機能、釣果写真識別・自動SNS共有機能、釣り中の天候や写真を記録した釣り日誌の自動作成機能の3つの機能があります。
安全確認機能は、船上の様子をライブ映像で確認できる機能や、異常状態(落水・転倒)の検知機能等を備えており、異常状態の検知機能は98.6%の精度で識別可能となっています。釣果写真識別・自動SNS共有機能は、船上カメラにて撮影した画像により人と魚の検知及び魚の種類の識別(7種類)を98%の精度で行い、自動でSNSに共有する機能となっており、集客効果が期待されます。
釣り日誌の自動作成機能では、釣果写真識別・自動SNS共有機能と同様に検知した画像をもとに釣り日誌が自動で作成されます。

地域の課題を解決するという社会的意義のあるシステムであり、カセ釣りをテーマとした商船高専らしい素晴らしい作品でした。

※カセ釣り:小さい船やイカダを固定して釣ること。

自由部門

自由部門では、高専生たちの自由な発想を活かして、コンピュータソフトウェアの企画から実装までを行います。製作した作品は、プレゼンテーションとデモンストレーションによって評価されます。
既存の枠に囚われない自由かつ独創的な発想で、地域・社会課題の解決に向け考案された、様々な作品が集まりました。


香川高専(詫間キャンパス)『わんもあ』のブース。砂のない地形は池として表現され、植えられた花が時間とともに枯れていく様子からわびさびを感じることができる。

最優秀賞 香川高等専門学校(詫間キャンパス) 『わんもあ-砂と鏡で創るもう一つの世界-』

最優秀賞となった香川高専(詫間キャンパス)は、日本文化の美しさの概念である「わびさび」をキーワードとし、「忙(せわ)しない日々の生活の中で『わびさび』の美しさを見出すきっかけとなって欲しい」という思いから『わんもあ』を提案しました。

『わんもあ』では、枯山水にも用いられ幼少期から誰もが触れてきたであろう「砂」を入力装置とし、現実世界をデジタルの鏡の世界に投影することで、ユーザは楽しみながらわびさびを実体験することができます。
鏡の世界では、現実世界の砂の形状や花や木、花火玉といったアイテムがリアルタイムで3D表示され、時間とともに成長し枯れていく変化の様子を、手で触れ、目で見て感じることができます。
更に、現実の世界とは異なる時が流れるデジタル空間であることを活用し、手作りの砂時計を使って時間を止めたり巻き戻したりすることができるのも醍醐味の一つです。

また、ユーザからのフィードバックをもとに、GPUの並列処理を使ってリアルタイム性を向上させたり、機械学習を用いて花の種類や成長の仕方を毎回ランダムに表現するなどの工夫から、ユーザに「わびさび」を感じてもらうための創意と熱意が伝わる作品でした。


鳥羽商船高専『ぱどろーる』を実際に操作しながら解説する様子。航行記録を作成しカヌーに乗って撮影をする手順についてわかりやすく説明している。

優秀賞 鳥羽商船高等専門学校 『ぱどろーる-安心・安全なカヤック支援システム-』

優秀賞を受賞した鳥羽商船高専は、カヤック等による海難事故の発生件数が年々増えていることに着目し、カヤックを楽しみながら航行の記録を残し、安全を支援するためのアプリ『ぱどろーる』を開発しました。

本アプリには、安全支援とデータ記録を行う航行アプリ、記録の閲覧を行う日誌アプリ、第三者がリアルタイムに安全確認を行うことができるダッシュボードの3つの機能があります。
航行アプリには、安全面を支援するために、機械学習を用いた転覆予測機能が導入されています。また、音声認識機能によって、パドルから手を放すことなく写真撮影が可能で、日誌アプリによってその記録をいつでも閲覧可能です。
ダッシュボードでは、第三者が遠隔でリアルタイムに乗艇者の位置情報や航路記録の確認を行えるため、カヤック体験事業者からも安全面での有用性が評価されています。

豊富な機能の中でも、日誌アプリで行われる自動撮影によって、乗艇者の表情から笑顔のスコアが高い記録画像を選び、自動でスライドショーを作成する機能はとてもユニークでした。

競技部門


優勝 福井工業高等専門学校 『 蟹高専 』

今年の競技部門では、戦国時代に名だたる武将が群雄割拠した地域である越前に因み、複数のエージェントを制御して効率的にマスを取り合う2チーム対戦型の陣取りゲームをテーマにした競技が行われました。

競技ボードは、縦と横に分割された矩形の領域で構成され、領域数は試合によって異なります。(縦、横ともに最大で 25 領域、最小で 11 領域)
競技ボードには各陣営の職人が初期配置されており(1 チームの職人の数は最大で 5 人で、最小で 2 人)、職人の行動は潜在・移動(周囲8方向への移動)・建築(周囲4方向のいずれかに隣接する領域に城壁を築く行為)・解体(周囲4方向のいずれかに隣接する領域の城壁を取り除く行為)の4つが可能となっています。また、城壁を築いた内側は陣地となります。
競技ボードの一部の領域には、城と池が予め配置されており、城を陣地にすると高得点が得られ、池に職人は移動できません。
対戦は先手・後手を入れ替えて2対戦を行い、城壁・陣地・城それぞれの数に重みを掛け合わせたポイントの合計で勝敗を決定します。

今大会の優勝は、主管校である福井高専でした。
福井高専は、人力とAIのハイブリッドの戦略を採用しました。城壁の建築・破壊場所は AI によって決定しますが、操作者が場所のヒントを与えることもできるようになっています。
そのうえで建築・破壊場所への移動経路の算出には、2点間の最短経路を求めるアルゴリズムとして有名なダイクストラ (Dijkstra) 法※を用いました。
決勝では、高得点につながる城を効率よく陣地にしたことで、準優勝である熊本高専(熊本キャンパス)との対戦に勝利し、優勝を勝ち取りました。

※ダイクストラ (Dijkstra) 法:ある始点から他の頂点への最短経路を見つけるアルゴリズムのこと。


陣取り合戦の様子は盤上にリアルタイムに反映され、観客も一体となって白熱した試合を楽しむことができた。

競技部門での試合風景。プログラミングの技術力に加えて、素早い判断と画面操作もプレイヤーに求められるため、会場にいると、試合中の高専生たちの集中した空気がひしひしと伝わってきた。

おわりに

第34回高専プロコンでは、コロナ禍の制約に阻まれず、高専生たちは日々学んでいる領域を最大限に活用し、独創的な作品開発を行い、その優れたシステムや技術を披露しました。

発表された作品は、人々を楽しませるエンターテイメント性に富んでいたり、身近な問題を解決したりするもので、社会実装が見込まれる逸品ばかりでした。こうした作品を通じて、高専プロコンが「社会のお医者さん」のように社会課題を解決する、新しい技術分野へ挑戦する人材を育てる場として、重要な機会であると深く感じました。
高専生たちの能力には大いなる期待がかけられており、今後の活躍には社会課題の解決や新しい世界の創造に向けた可能性が秘められています。
今大会の参加チームの中には、来年開催される「GCON」「DCON」といった別のコンテストへ参加する準備を進めているチームもいました。更にブラッシュアップした作品となることを期待しています。

若い技術者たちが社会への貢献を実現するためのプラットフォームとして、成長していることを実感するとともに、高専生たちの発展と将来の成功に期待が膨らむ、とても有意義なコンテストでした。

全国高等専門学校プログラミングコンテスト:公式サイト

※この記事の所属・役職・学年等は取材当時のものです。